弁償

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 腕を引かれて体勢を崩し、そのまま担がれて車の中に押し入れられて扉が閉まる。  私を見張るように隣に座った男が「出して」と言うと、運転席から「はい」と低い声が返ってきて、車が動き始めると同時に簡単に逃げられないことを悟った。  あの映像で傷を付けられていた車は、今乗っているこの車なのだろうか。  車種も値段も分からないけれど、なんとなく高級そうな車だということだけは分かる。  大切な車を傷付けた落とし前をつけろと、これから脅されたらどうすればいいんだろう。本当になんの関係もないのに。  車内で何度か説得を試みたけれど、「うん。だからそういう話は着いてからね」と言われるばかりで話が進まない。  どこに連れて行かれるかも教えてもらえないまま、どんどん知らない景色になっていく窓の外を見て、不安と恐怖で押し潰されそうになった。  永遠のようにも感じた時間だったけれど、車から降ろされて時計を確認すると、移動していた時間は20分程度だったらしい。  車から降りて連れていかれた建物はどこかのビルで、エレベーターという狭い箱の中に閉じ込められてからは生きた心地がしなかった。
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