弁償

4/12
前へ
/26ページ
次へ
 五階に到着したところでエレベーターが止まり、降りるように促される。  エレベーターから出て真っ先に視界に飛び込んできたのは、広々としたエントランスだった。  白い大理石調の床の先には受付用のカウンターがあり、丁寧に手入れされた観葉植物がいくつか並んでいる。  夜だから大きな窓から日光が入ってくることもないし、受付に人もいない。それでも灯りがついたままのエントランスは明るく、綺麗な会社だなと素直に思った。  薄暗い倉庫のような場所に連れていかれると思っていたから、普通のオフィスの入口のような場所に通されてびっくりしてしまう。  正直に言うと、私を連れてきた人達に対して悪いイメージしか持っていなかったのだ。話し掛けてきた男性も運転手の人もなんだか仄暗い雰囲気で、普通の社会人ではないと思い込んでいた。  真っ暗な路地で見たから、そういう印象を植え付けられただけなのかもしれない。明るい場所で改めて見てみると、少しだけ印象が変わる。  見た目や話し方がダウナー系というだけの、綺麗な顔をしたスタイルの良いお兄さんだ。 「さっきの映像、別人だって主張してたよね? 一度座って明るい場所で映像見直すからこっち来て。奥に談話室あるから、そっちで話そう」 「あ……っはい。よろしくお願いします」  ちゃんと話を聞いてくれそうな人物であることに少しだけ安心して、言われた通りに奥の部屋まで着いて行く。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加