弁償

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「……あ、今の……時計」 「うん?」 「袖のところから一瞬チラッと時計が見えて、ベルトの色とか全然違うなって……」 「へぇ。どれ?」  少しだけ動画を戻し、その一瞬のところで停止させる。  私が着けている白い皮のベルトとは違う、分かりやすいシルバーが彼女の手首で光っていた。 「ど、どうですか……?」 「んー……確かに時計は違うみたいだけど、それだけじゃ少し弱いかな?」  そう言ってまた動画の再生が開始され、泣きそうになるのを堪えてぐっと画面を見つめる。  後ろ姿しか分からないのに、細かい服飾の違い以外でどうやって無実を証明すればいいのだろう。せめて一瞬でも顔が映っていればいいのにと願うような気持ちで、画面を見続けることしか私には出来ない。  二周目を見終わったところでもう一度チャンスをくれるつもりなのか、また冒頭に映像が戻される。 「あ! あの、今の……」 「うん? なに?」  少し戻しすぎたのか、女性が車を傷付ける少し前の場面から動画が流れ始める。  相変わらず顔を判別できるような映像ではなかったけれど、残された可能性に気付いて大袈裟に声をあげてしまった。 「えっと……この女の人、多分このコンビニから出てきたばっかりだと思うんですけど、このお店の監視カメラとか見せてもらったら顔まで分かりませんか?」  退店する音声と、カメラで捉えた影の動き方。  このコンビニから出てきたばかりなのは恐らく間違いないはずで、それなら店内の監視カメラに何か残っているかもしれない。防犯の目的で設置してあるカメラを見せてもらえば、顔まで見る事ができるだろう。
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