プルトの大鎌

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「鈴香さん、今日も遅刻寸前ですよ。もう少し余裕を持って登校すると良いでしょうね」 「はぁ、すみません」 鈴香は校門の前で見張りをする先生に頭を下げる。 学校は朝のホームルームが始まるまであと五分あるか、ないか。 これから教室に向かえばおそらく間に合うだろう時間帯だ。 この先生が門の前の見張りをする日は、通りかかる全ての人間が必ず嫌味を言われる定め。 これは別に早く来てた生徒も遅く来た生徒も同じである。 早く来た生徒はそれはそれで 「早く来たなら勉強をすることですね」 などと言われるそう。 やんちゃそうな生徒も、気の弱そうな生徒にも。 要するに誰にでも一言余計に言わねば気がすまない性格の先生なのだ。 それでも鈴香はその先生のことがそんなに嫌いではない。 その厭味ったらしい文句は無差別に吐き捨てられるから、人を選んで嫌味を言うよりかはある意味平等だと思っていた。 どこかホコリっぽくて傷だらけの階段を登って教室に入る。 教室には欠席を除きほぼ全員が揃っていた。 鈴香が席に着けば、ホームルームが始まる。 いつものように当番の確認やらお知らせやらを聞く。 ホームルームが終わればその後は一限だ。 鈴香は一限目前の十分休み、教科書を机に取り出しいつものように席でぼんやりする。 そんな鈴香におもむろに近づくのは担任の先生だ。 「鈴香、ちょっと話あるから。一限前に職員室へ一緒に来てくれるか?」 「……え?あ……わかりました、けど」 (いったい何の用なんだろう) いつも個別生徒に話しかけるなんてしない担任に突然声をかけられ驚きを隠せない鈴香。 一限目の授業が始まろうとしている教室を後にして担任の背中を追いかける。 そうして職員室へとたどり着くと、担任は棚の前で待つように鈴香に指示をしてどこかに行ってしまう。 授業開始のチャイムはついさっき鳴った。 他の生徒は教室で授業を受けている。 授業のためかほとんどの先生さえ出払った閑散とした職員室で一人きり。 そのいつもとは違う景色に違和感を感じた鈴香は眉をしかめる。 職員室の窓の外の青空は優雅に雲を流す。 遠くから授業の音が聞こえてくる。 職員室に居残った先生が時折書類をペラとめくったり、筆記具のかすれる音が強く聞こえた。 そして職員室の時計が5分ほど過ぎるのを見届けた後、おもむろに職員室の扉が開く。 そこにいたのは、担任とそれに校長先生だ。 「君が二年の青藍鈴香さんですか」 「……はい、そうですけど」 気まずさに耐えかねて小さな声で鈴香は返事をした。 鈴香は何か問題になること、特に校長先生に目をつけられるほどのことをしてしまっただろうかとひどく心配していた。 そんな鈴香の気持ちを知ってか知らずか、校長は鈴鹿のそばへ寄って声をかける。 「君には転校してもらうことになったのですよ。よろしいですか?」 思いもよらぬその問いかけの意味を鈴香は考えようとしたが、ついによくわからないまま。 そのまましばらく考える時間が続いた。
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