4.セドリックの追憶

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   驚きを隠せないシオンに、セドリックは尚も語る。 「こうして、私たちは王宮内でますます冷遇されるようになりました。私の母は、ルチア皇妃が帝国に輿入れする際、スタルク王国から遣わされた反帝国派の宰相の娘でしたから……」  つまりセドリックの母親には、生前、帝国内の機密情報をスタルク王国に流した容疑がかけられたのだ。 「誰もが母を疑っておりました。母の遺品は全て押収され、手元に残ったのは遺髪だけ。けれど殿下だけは、母の無実を信じてくださった。私ごと切り捨てることもできたのに、決してそうはなさらなかった。かと言って、まだ子供だった私たちには、母の疑いを晴らす(すべ)はありませんでした。――結局その後、帝国はスタルク王国との開戦を決定。王宮内での居場所を完全に失った殿下と私は、クロヴィス殿下の計らいにより、ランデル王国に送られました。その後終戦までの間、教会の孤児院で身を潜めて過ごすことになったのです」  当時の記憶が思い出されるのだろう。  セドリックは時折息苦しそうに顔をしかめるが、それでも、語るのを止めようとはしない。 「あの頃の私たちは、すっかり疲れ切っておりました。言語も文化も異なる土地で、不自由な暮らしを強いられ、いつ祖国に戻れるのかもわからない。そんな生活の中、元々身体の弱かった私は伏せりがちになりました。薬も効かず――まぁ、今思えば精神的なものだったのでしょうが――けれど私が最も気がかりだったのは自分の身体ではなく、すっかり人間不信に陥っていた殿下のことでした」 「…………」  もはや完全にその場の雰囲気に呑まれたシオンは、言葉一つ発することができなかった。  セドリックはいったいどうして自分にこんなことを話すのだろうか――強く疑問に思いながらも、それを口に出すことはどうしても(はばか)られた。  ――が、その疑問の答えを、シオンはすぐに知ることになる。 「けれど」――と、セドリックが声色を変えた、すぐあとに。 「ランデル王国で過ごし始めて二ヵ月が経ったある日、殿下はエリス様と出会われたのです」
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