4.セドリックの追憶

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 ◆◆◆  それは夏の暑い日の、日暮れ頃。  王都の端に位置する教会の孤児院――その中の病人用の隔離された小部屋の硬いベッドの上で、セドリックは今日も伏せっていた。  夏風邪を拗らせてしまっていたからだ。  最初は少し熱っぽいくらいのものだったのだが、アレクシスに心配をかけまいと我慢していたら、三日前にとうとう倒れてしまい、治る気配を見せないまま今日(こんにち)に至る。 「リック(・・・)、薬の時間だ」  セドリックが休んでいると、頭上から不意に声がした。  瞼を開けると、そこにはベッド脇の丸椅子に腰かけて、自分を心配そうに見下ろすアレクシスの姿がある。 「……殿下」  セドリックが呟くと、アレクシスは小さく眉を寄せた。 「お前、いつまで俺をそう呼ぶつもりだ? ここでの俺は『殿下』じゃない。『アレックス』だ」 「……ああ、そうでした。つい……」 「まぁ、俺も咄嗟の時は『セドリック』と呼んでしまうけどな。――それで、リック。気分はどうだ? 起き上がれるか?」 「はい、大丈夫です」  アレクシスに問われ、セドリックは笑みを取り繕う。  実際は最悪な気分だったが、アレクシスにこれ以上心配をかけるわけにはいかなかった。  身体を起こしたセドリックがベッド脇の四角いテーブルに目をやると、粉薬と水の入ったコップが用意されている。 「ちゃんと全部呑み干すんだぞ」 「わかってますよ。子供じゃないんですから」
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