4.セドリックの追憶

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 ――セドリックは、この薬に効き目がないとわかっていた。  三日前から朝夕飲み続けているが、症状は改善するどころか悪化するばかりだからだ。  けれどもし薬を拒否すれば、アレクシスに要らぬ心配をかけてしまうだろう。  それだけは、避けたかった。  セドリックは、込み上げてくる吐き気に耐えながら、粉薬を一気に水で飲み下す。  するとアレクシスは、セドリックが薬を飲み干したのを確認し、安堵の息を吐いた。 「お前、そろそろ何か食べられそうか? ここ数日、水しか口にしていないだろう。少しは食べないと、身体が持たない」 「……あ。……それは……」 「『食欲が湧かない』――か?」 「…………すみません」  ――セドリックはここ数日、水以外のものを殆ど口にしていなかった。  喉に物が通らず、パンや肉は食べてもすぐに戻してしまう。  スープなら飲めるかと思ったが、この国の調味料や香辛料は、病気の身体にはどうしても合わなかった。  口にできそうなものといえば果物くらいだったが、現在ランデル王国内の生鮮食品――中でも果物価格は、帝国とスタルク王国の戦争の影響を受けて高騰している。  そのため果物は贅沢品となり、孤児院の食卓に並ぶことはなくなっていた。 (ああ。本当に僕は、どこまで殿下の足を引っ張れば気が済むんだ)  セドリックは唇を噛みしめる。  本来ならば、自分がアレクシスを支えなければならないのに――と。  そんなセドリックの気持ちを知ってか知らずか、アレクシスが呟いた。 「すまない」と。 「……え?」 「すまない。……お前に、何もしてやれなくて」 「……そんな。――そのようなことをおっしゃらないでください! 大丈夫です! 明日にはきっとよくなりますから! すぐに治しますから!」 「……ああ、そうだな。……早く……早く元気な姿を見せてくれ、……セドリック」 「――!」 「俺には……もう……、……お前、しか……」 「……っ」  今にも泣きだしそうなアレクシスの声に、いつになく弱気なその表情に、セドリックはハッと息を呑む。
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