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――セドリックは知っていた。
二年前、ルチア皇妃が亡くなってからというもの、アレクシスが毎晩のようにうなされていることを。
この場所に送られてから、いや、それよりもずっと前から、アレクシスが自分以外の人間と言葉を交わさなくなったのは、人を信じられなくなってしまったからなのだと。
そして悟ったのだ。
アレクシスの精神が、とっくに限界を迎えてしまっていることに。
「……アレクシス……殿下」
(ああ……。いったいどうしたら……どうしたらこの方の心を救うことができるのだろう)
そうは思っても、まだ十二だったセドリックには、何が正解かわからなかった。
何と言葉をかければいいのかもわからなかった。
結局セドリックはそれ以上何も言えず、「よく休め」とだけ言い残して部屋を出ていくアレクシスの背中を、黙って見送ることしかできなかった。
――その晩、セドリックは真夜中の教会にひとり忍び込み、祈りを捧げた。
もしもこの世に神が実在するというのなら、お願いです。どうか殿下を救ってください。
誰でもいい。殿下の孤独な心を、癒やしてください。
殿下の辛い過去は、僕が死ぬまで背負います。
だから、何も知らず、ただ、あの方に安らぎを与えることのできる誰かを、どうかお授けください――と。
すると、その翌日だった。
セドリックの祈りが通じたのか、アレクシスはセドリックの為に果物を手に入れようと教会を抜け出した先で、エリスに出会ったのだ。
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