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(にしても、僕にこんな話をするなんて……いったいどういうつもりで……)
内心、シオンは動揺していた。あまりにも不自然な状況に、困惑を隠せなかった。
自分に『処分』を言い渡すはずのセドリックが、突然語った十年前の真相に、どう反応すればいいのかと。
もしやセドリックは、自分の同情心を買い、自ら身を引かせるつもりなのだろうか――などと考えてしまうほどには混乱していた。
そんなシオンの考えを読み取ったのか、セドリックは静かな声で告げる。
「私は、別にあなたに同情してほしいとも、殿下の状況を理解してくれとも思ってはおりません。ただ、知っていただきたいのです。あなたに辛い過去があるように、殿下にも、私にも、耐えがたい過去がある。そしてその重さは、決して比較できるものではないということを」
セドリックは、続ける。
「殿下は、あなたを『小姓』にしてもよいと仰っておりました。小姓にしては少々とうが立ちすぎておりますが、殿下の小姓であるならば、私同様、男子禁制のこの棟に立ち入ることが許されますから」
「……!」
「ですが、ならば尚のこと、あなたは知らねばなりません。殿下は身内の愛に飢えている。そのせいで、血の繋がりのある者にはとても弱いのです。あなたがエリス様の弟である限り、殿下はあなたが何をしようと、決して無下にはなさらない。――ですが私は違います。もしもあなたが殿下に害を成す存在であると判断したそのときは、殿下の命に逆らってでも、あなたを排除するでしょう」
「――っ」
セドリックの冷えた眼差し。
その奥に潜む殺意は間違いなく本物で――シオンはごくりと息を呑んだ。
セドリックは、尚も続ける。
「さあ、シオン殿。今の話を踏まえた上で、あなた自身がお決めください。殿下の小姓になるのか、ならないのか――ご自分の意志で」
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