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◇
一方その頃、アレクシスは夜の庭園にいた。
まさかセドリックがシオンに昔話を語っているなどとは少しも考えず、彼はエリスと腕を組み、月明りの下、夏の夜風に当たっていた。
――が、二人の間に会話らしき会話はない。
どころか、どこか気まずい雰囲気すら漂っている。
その理由は、アレクシスの「シオンを小姓にしようと思っている」という発言を聞いたエリスが、突然黙り込んでしまったからだった。
(……何だ? 俺は何か不味いことを言ったか?)
アレクシスはチラリと横目でエリスを見下ろし、自分の発言を振り返る。
が、先の言葉以外、特にエリスに何か言った覚えはない。――ということは、だ。
(まさかエリスは、シオンがここで暮らすことに反対なのか? それとも、俺の小姓にはしたくない、ということなのか……?)
この二週間、どう見てもエリスはシオンを可愛がっていた。
だからアレクシスは、喜ばれこそすれ、このような態度を取られるとは夢にも思っていなかった。
沈黙に耐えきれなくなったアレクシスは、エリスに尋ねる。
「君は、シオンと暮らしたくはないのか?」
するとエリスは、驚いたように顔を上げた。
「いいえ、そんなはずありませんわ……!」と。
そして、思い詰めた様な顔で、こう続けた。
「殿下のお気持ちは、とても嬉しいです。けれど、あのような騒ぎを起こしたあの子を小姓にするというのは、わたくしにとっても、あの子にとっても、甘すぎる気がしてならないのです。それにあの子は、あまりにもわたしにべったりで……あのままでは、殿下のお役にはとても立ちませんわ」
「――!」
「申し訳ありません、殿下。この二週間、あの子を甘やかしてしまったわたくしがいけなかったのです。まさかあんなことを言い出すとは思っておらず……反省しております」
「……っ」
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