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突然の謝罪に、アレクシスは狼狽える。
エリスがそんなことを考えていたとは思いもしなかったからだ。
それに、どうやらエリスには、自分がシオンに甘いという自覚があった様子である。
てっきり無自覚なのかと思っていたアレクシスは、何よりもそのことに衝撃を受けた。
(エリスは、思っていたよりもずっと冷静にシオンのことを考えていたんだな)
――だがしかし、自分はもう既に、「小姓になるか、今夜中に出て行くか、シオンに選ばせろ」とセドリックに命じてしまった。
その言葉を今さら覆すというのは自分のポリシーに反するし、それに何より、アレクシスがシオンを小姓にすると言い出したのは、別にシオンがエリスの身内だったからというだけではない。
「エリス。君の考えは理解した。だが、俺の意見も聞いてくれるか?」
アレクシスは、エリスと組んでいた腕をそっと放し、正面から向かい合う。
するとエリスはこくりと頷いた。
――アレクシスは、冷静な声で告げる。
「確かに君の言うとおり、俺は甘いのかもしれない。実際、今の俺はシオンに同情している。侍女から『シオンが泣いた』と聞かされ、俺自身、十二のときに帝国を離れていたときのことを思い出したからだ。そのとき俺にはセドリックがいたが……六つという幼さで独り家を追い出されたシオンは、俺よりもずっと孤独だっただろう」
「……殿下」
「だからもう少しくらい、君と過ごす時間を与えてやってもいいと思った。とは言え、いつまでも客人として置いておくことはできないし、妃の弟を、使用人として雇うわけにはいかないからな。だからこその『小姓』だったが、実際に俺の世話をさせるつもりはないし、そもそも昼間は学院があるだろう。だから、あいつはあいつで好きに過ごしてくれればいいと思っている。――まぁ、あいつが小姓になることを望めば、だがな」
「――!」
刹那、エリスはハッと息を呑む。
アレクシスの語ったシオンの扱いが、想像よりもずっと優しかったからだ。
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