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6.優しさの理由
◆
――時は数分前に遡る。
セドリックからアレクシスの昔話を聞かされたシオンは、まさに『選択』を迫られていた。
『アレクシスの小姓になるか、今夜中に宮を出ていくか』という選択である。
けれど実質、選択肢は一つしかないと言っても過言ではない。
シオンはセドリックから、『殿下に害を成す存在だと判断したら、お前を排除する』という意思を示されたからだ。
それは脅し以外の何物でもなかった。
実際シオンが、「それは脅しですか?」と尋ねると、セドリックは平然と答える。
「そう思ってくださって構いませんよ。私は、エリス様の弟としてならばあなたを受け入れられても、殿下の小姓としては、認めるわけには参りませんから」と。
その言葉を聞いたシオンは、何よりも真っ先にこう思った。
――なるほど。だからセドリックは、急に態度を変えたのか、と。
今日までシオンは、宮廷舞踏会の夜を除き、セドリックと挨拶程度しか話したことがなかった。
エメラルド宮で顔を合わせても、向こうから話題を振ってくることはまずないし、あくまで『他人』といった態度で接してくる。
つまり、『セドリックは自分に全く興味がないのだろう』――というのが、この二週間のシオンの見解だった。
そんなセドリックが、今頃になって突然態度を変えたものだから、シオンはとても驚いた。
アレクシスの悲惨な過去よりも、セドリックの態度の変化への衝撃の方が大きかったほどだ。
だが、その理由はセドリックの今の言葉によってはっきりした。
セドリックはアレクシスにしか興味がなく、そして、どこまでもアレクシスの幸せを願っている。
だから彼は、『アレクシスの小姓』という、アレクシスに最も近い立場に収まりかけている自分を、牽制しているのだろう。
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