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(この男、殿下の十倍は厄介だ)
シオンは、対面に座るセドリックの様子を伺いつつも、瞼を伏せる。
正直、彼は悩んでいた。
シオンは、アレクシスの小姓にはなりたくないが、それでエリスの側にいられるなら安いものだと思っていた。
この十年、エリスのことだけを考えて生きてきた彼にとって、これはまたとないチャンスだった。
けれど同時に、『本当にそれでいいのか。この提案に乗っかるということは、自分の負けを認めていることになるのでは』という気持ちが沸いてくるのも事実。
昼間、自殺未遂まがいの騒ぎを起こし、エリスや使用人に心配と迷惑をかけた自分。
そんな自分を『処罰』するどころか、むしろ『善意を与えてくる』アレクシスと比べ、自分はどれだけ器が小さいのだろう――と。
もしここでこの提案を受け入れたら、自分は今後一生、アレクシスに恩を感じて生きなければならなくなるのでは。そんな屈辱に耐えられるのか、と。
(お金なら後でいくらだって返せる。でも、地位や立場はそうはいかない)
そもそもシオンは、学院を卒業後、アレクシスに学費も滞在費用も全て返済するつもりでいた。
だから、アレクシスに何の遠慮もするつもりはなかった。
だが、小姓などになってしまったらそうはいかない。
――そんな風に考えてしまう自分の打算的なところにも、惨めな気持ちが込み上げた。
(僕は姉さんの側にいたい。でもそれは、ただの僕の我が儘だ。姉さんのためじゃなく……僕のため)
自分は、アレクシスやセドリックとは違う。
『姉の幸せのため』と口では言いながら、心では全く逆のことを考えている。
心に浮かぶのはいつだって、『アレクシスと姉が不仲であれば』『アレクシスに他に好きな人がいれば』『二人の心が離れれば』――自分が姉を手に入れることができるのに、という、邪な感情ばかりなのだから。
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