7.シオンの選択

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7.シオンの選択

 瞬間、シオンは、さぁ――と全身から血の気が引くのを感じた。  未だかつて見たことのない、女の顔をした(エリス)の姿を目の当たりにし、息が止まりそうになった。  なぜならそれは、シオンがこの二週間必死に目を逸らそうとしてきた、『二人が真の夫婦である』という、何よりの証拠だったのだから。 「……姉……さん?」  言葉を失うシオンの視線の先で、仲睦まじく抱き合う二人。  予期せぬ(シオン)の登場に慌て始めるエリスと、口づけを邪魔されたことに不快感を露わにするアレクシス。  そんな二人の様子に、シオンはきゅっと唇を引き結んだ。 (ああ……そうだよ。最初からわかってたじゃないか。姉さんはもうずっと前から、僕の知る姉さんじゃないんだって)  つまり、セドリックの言ったことは当たっていたのだ。  この二週間、エリスはいつだって理想の姉だった。  昔と変わらず自分を愛し慈しむ、清廉な姉でいてくれた。  けれどそれはあくまでエリスの一面でしかなく、本当の彼女は、もっと色々な顔を持っている。  だがそれを、弟である自分には決して見せられなかったのだ。  それはきっと、エリスが自分に気を遣っていたからで。  いい姉であらねばと、そう思っていたからで――。 (そうなんだね、姉さん。……姉さんは、僕が側にいたら、本来の姉さんではいられないんだね……?)
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