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そして今度はアレクシスへと身体を向け、「二週間、お世話になりました」と感謝を述べる。
するとアレクシスは、意外そうに目を細めた。
「本当にいいんだな? 俺は、二度も機会をやるような優しい人間ではないぞ」
「わかっています、殿下。僕は、一度決めたことは守ります。だから殿下も約束してください。姉を必ず幸せにすると。それと……絶対、泣かせたりしないって」
「…………」
その言葉に、アレクシスは今度こそ眉をひそめた。
自分に対抗心を燃やしていたはずのシオンが、まるで自分を認めるようなことを言ったのだから、驚くのも当然だ。
(こいつ、急にどうしたんだ……?)
アレクシスは一瞬そう思ったものの、一呼吸おいて、答える。
「ああ、当然だ」――と。
そして、こう続けた。
「だが、これだけは覚えておけ。エリスの幸せの中には、お前が幸せであることも含まれているとな」
「……!」
「だから、いつでもエリスに会いにこい。泊めてはやらんが、歓迎する」
「…………は、い」
『いつでも会いにこい』――その言葉に、シオンは奥歯を強く噛みしめる。
そうでもしなければ、うっかり泣いてしまいそうだった。
いや、事実シオンは、今まさに目じりに涙を溜めていた。
今が夜でなければ、彼はもっと早いタイミングで、この場から立ち去っていただろう。
とは言え、これ以上何か声に出せば、たちまち嗚咽に変わってしまうだろう自覚があったシオンは、くるりと二人に背中を向ける。
今にも声が震えだしそうなギリギリのところで、どうにかこうにか別れの挨拶を絞り出す。
「では……僕は、これで」と。
そしてその言葉を最後に、シオンは一目散に走り去るのだった。
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