7.シオンの選択

6/6
前へ
/98ページ
次へ
 だが、セドリックにとって『どうでもいい存在』だったシオンが、アレクシスの一言によって一瞬のうちに『敵』となった。  セドリックはアレクシスを慕うあまり、シオンがアレクシスの『小姓』になることを、どうしても受け入れられなかったのだ。  だからセドリックは、自らの過去を語ってシオンを脅し、思考を捻じ曲げようとした。  そうまでして、シオンを遠ざけようとしたのである。 (自分のしたことに後悔はない。が、彼には申し訳ないことをした)  本来なら、アレクシスの決定にセドリックが口を挟むことは許されない。  身勝手な私情でシオンを煽り、本来シオンが選んだであろう道を選ばせないようにするなど、もってのほかだ。  だがそうとわかっていても、そうせざるを得なかった。  つまり、今回のことに限って言えば、シオンは被害者なのである。  ――となれば、せめて宿の手配くらいはしてあげなければ。  あるいは今夜一晩くらいならば、自分の部屋に泊めることもやぶさかではない。  そんなことを考えながら眼下を見下ろすと、どうやらアレクシスの方も上手いこと話がまとまったようだ。  アレクシスはエリスを腕に抱え、速足でこの棟の入口に向かってくるところだった。  これからお楽しみの時間ということだろう。    セドリックはそんな二人をじっと見下ろし、物憂げに瞼を伏せる。  どうかこの穏やかな日々が一日も長く――願わくば、一生涯続くようにと祈りを捧げながら。 「さて……邪魔者は一刻も早く退散せねば」  ――と薄く微笑んで、セドリックは部屋を後にしたのだった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

670人が本棚に入れています
本棚に追加