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だが、セドリックにとって『どうでもいい存在』だったシオンが、アレクシスの一言によって一瞬のうちに『敵』となった。
セドリックはアレクシスを慕うあまり、シオンがアレクシスの『小姓』になることを、どうしても受け入れられなかったのだ。
だからセドリックは、自らの過去を語ってシオンを脅し、思考を捻じ曲げようとした。
そうまでして、シオンを遠ざけようとしたのである。
(自分のしたことに後悔はない。が、彼には申し訳ないことをした)
本来なら、アレクシスの決定にセドリックが口を挟むことは許されない。
身勝手な私情でシオンを煽り、本来シオンが選んだであろう道を選ばせないようにするなど、もってのほかだ。
だがそうとわかっていても、そうせざるを得なかった。
つまり、今回のことに限って言えば、シオンは被害者なのである。
――となれば、せめて宿の手配くらいはしてあげなければ。
あるいは今夜一晩くらいならば、自分の部屋に泊めることもやぶさかではない。
そんなことを考えながら眼下を見下ろすと、どうやらアレクシスの方も上手いこと話がまとまったようだ。
アレクシスはエリスを腕に抱え、速足でこの棟の入口に向かってくるところだった。
これからお楽しみの時間ということだろう。
セドリックはそんな二人をじっと見下ろし、物憂げに瞼を伏せる。
どうかこの穏やかな日々が一日も長く――願わくば、一生涯続くようにと祈りを捧げながら。
「さて……邪魔者は一刻も早く退散せねば」
――と薄く微笑んで、セドリックは部屋を後にしたのだった。
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