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8.夏の宵
シオンがエメラルド宮を去って、一週間が経った日の夜。
寝支度を終えたエリスの部屋には、蒸留酒の入ったグラスを片手にソファでくつろぐアレクシスと、その片膝に頭を乗せ、緊張に身を固めるエリスの姿があった。
時刻は午後九時を回ったころ。
部屋の灯りを落とすにはまだ早く、エリスはどうしようもなく赤く染まってしまう頬を、照明の下に晒していた。
「顔が赤いな。まだ慣れないのか? もう五日目だぞ」
「……っ」
アレクシスは誘う様な目で、エリスの瞳を真上から覗き込む。
――この一週間、伽の前にこうして膝枕をするのが、二人の日課となっていた。
シオンがエリスに膝枕をしてもらっていたことを羨んだアレクシスが、「俺にもしてくれないか」とせがんだことがきっかけだ。
こうして最初の二日はエリスがアレクシスを膝枕していたのだが、三日目の夜にアレクシスが「交代しろ」と言い出して、それ以降何やら味を占めてしまったのか、エリスが膝枕される日が続いている。
(こんな体勢、一生慣れるわけないわ……。それに、殿下の膝は硬くて……すごく……落ち着かない)
五日が経った今も、どうにもソワソワしてしまう。
この膝枕タイムが終わったら、灯りを消してベッドイン――という流れが決まっていることも、慣れない理由の一つかもしれない。
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