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「あの、殿下……。そろそろ代わっていただけませんか? わたくしが膝枕させていただきますから……」
エリスはぎこちなく視線を上げる。
だがアレクシスは、当然のごとく拒否した。
「駄目だ。確かに君の膝枕は何物にも代えがたい温もりがあったが、見下ろす方が俺の性にあっている。それに、横になっていたら酒が飲めないだろう。君が口移しで飲ませてくれると言うなら別だが」
「……っ」
アレクシスはエリスの顔を覗き込んだまま、くっと片方の唇を持ち上げる。
その挑発的な笑みに、エリスの心臓は、どうしようもなく鼓動を速めた。
とても直視していられない。
「……わたくし、お酒は飲めないのです。ご存じでしょう?」
エリスはふいっと顔を横に背けるが、アレクシスはそれさえも愛おしいと言うように、表情を緩める。
「わかっている。が、酔った君の姿を見てみたいという願望があるのは事実だ。君の白い肌が紅潮する様を想像すると、全身の血がたぎって剣すらまともに握れなくなる」
「――っ」
――甘い。と言うか、エロい。
エリスは、今ではすっかり見慣れたはずの、白いバスローブから覗く厚い胸板から放たれる色気に当てられ、両手で顔を覆った。
開け放たれたバルコニーからは、夏の終わりの清涼とした空気が流れ込んでくるが、そんなものではどうにもならないくらい、身体が火照って仕方ない。
お酒なんて一滴も口にしていないのに、アレクシスの言動がいちいち色気を含みすぎて、酔わされてしまうのだ。
(恥ずかしくて、顔から火を噴きそうだわ)
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