8.夏の宵

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 シオンがいなくなる前までのアレクシスは、何を伝えるにもぎこちないところがあった。  言葉も、触れる指先も優しかったけれど、全てにおいて遠慮している節があった。  それが変わったのは一週間前。シオンが宮を去ってからだ。  走り去るシオンの背中を追いかけようとしたエリスを、「あいつも男だ。一人にしてやれ」と言って止めたアレクシス。  彼は、それでも尚反論しようと口を開きかけたエリスの唇を無理やり塞いで遮ると、拗ねたような声でこう言った。 「今日はもうその名を口にするな。いくら君の実弟と言えど流石に妬ける。君の夫はこの俺だ」  と。  今にして思えば、あのときの台詞は、シオンのことばかり考えて悩む自分の思考を、別のところに逸らすためのものだったかも、と思えなくもない。  が、そのときは驚きすぎて、そんなことを考えている余裕はなかった。  結局エリスは放心状態のまま部屋に連行され、気付いたときにはベッドの上。  その後、「二週間我慢したんだ。今夜は寝かさない。覚悟しろ」と耳元で囁かれた言葉の通り、朝まで抱きつぶされたのである。――勿論、同意の上でだが。
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