帰還者コージ

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俺はスリッパを脱いで、片手に持ち、マフラーの上に立った。 ポロロさんの愛情が編み込まれているのだ土足でなんて踏めない。 「浅野さん、靴を脱いでもらえますか?これはね、命につながってる。 大事なものなんです」 何が起きたのか理解できない浅野さんが怯えて後ずさった。 「行きましょう、浅野さん、この上を歩けば帰れます」 「落合さん...あなたは、いったい、何者なんです?」 俺じゃなくて.......とは、言わないほうがいい気がした。 「言ったでしょ、人生ボロボロの無能な人間だって。 それでもまあ、どうにか生き延びてますけどね」 浅野さんが寒さで鼻の頭を赤くして、目をうるませている。 そして、なにを吹っ切るように首を振ると、スニーカーを脱いで マフラーへと足を踏み入れた。 並んで歩くには幅は狭い。俺が先頭で、浅野さんが後ろから続いて 俺たちは、白く細く長い道のりを歩いた。 そのあいだ、浅野さんはなぜ死のうとしたのか俺は、なぜ死のうとしたのか。 そして、なぜ、俺は死に損ねたのか......。 それらのことを語り合った。 そうして、いつしか真っ白な光に包まれて そこで意識が途切れた。
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