帰還者コージ

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「だあぁぁぁっ!!いたたたたたっ!痛い痛い痛い!!」 ちょっとかっこつけて黒い空間へと飛び出した途端に、俺はつまづいて 派手に転倒した。 「お...落合さん!?」 倒れた状態で顔だけ上げると、浅野さんがいた。小型の懐中電灯に 照らされて、俺はまぶしさに顔をしかめた。 「浅野さん...やっぱり、樹海でしたか...」 俺はよろめきながら立ち上がった。つまづいたのは、露出している無数の 木の根のせいだ。 寒々とした空気、湿った地帯、緑の苔の付いた岩と、平面ではない足元。 日が暮れるのが早くて暗くなっていたが、俺にはそこが青木ヶ原の樹海だと わかっていた。 「落合さん!どうやってここに?いや、どうして僕がここにいると?」 「それは説明すると長くなるから省略しますが、 浅野さん、俺はあなたのアパートに行った時点で違和感があった。 そしてわかったんです。樹海で自殺しようとしてるんじゃないかと」 「まさか、どうしてわかったんですか?だって、 だって僕は......絶対にバレないように明るく振舞ってたのに」 「それは......うわっ、寒っ!」 俺は身震いした。そして、わりと考えなしに飛び出してしまったことに 気づいた。 部屋着のスウェットの上下のみだし、部屋から出てきたので室内用の スリッパを履いていた。 とりあえず、俺は、また転ぶことを恐れて、木の根の上に腰をおろした。 すでに右手から手首を広範囲で擦りむいてしまって、けっこう痛い。
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