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「だって浅野さん、よくよく考えると不自然なんですよ。
旅行って言いましたけど、山梨なんて東京から近いじゃないですか、
もちろん2~3時間はかかるけど、旅行っていうより遠出じゃないかと。
それに、日帰りならポロロさんを友人に預ける必要だってないはずだ。
あなたは、もう家に帰るつもりはないから......託したんじゃないですか?」
無論、俺の読みは当たっている。
浅野さんは、ニット帽にダウンジャケットにジーンズにスニーカーで
手袋をしているが、ショルダーバッグしか身に着けていない。
あまりにも軽装すぎるのだ。
「探偵って、すごいんですね......そんなことだけで樹海だとわかるなんて」
浅野さんが心底、落胆した顔でうつむいた。
俺にとっては、初めてみる悲しげな表情だった。
「それは違います、俺は、人生ボロボロのただの無能な人間です」
俺もまたうつむいた。
俺たちの吐く息の白さが、周囲の闇をさらに濃くみせていた。
「俺も、過去に自殺しようとしたことがあった。
だからね、あなたが山梨に行くって言ったときに、
俺には樹海しか思い浮かばなかったんです」
浅野さんが驚いて顔を上げた。
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