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「アキちゃん、ねえねえ、こんなの見つけたんだけどさ」
「え、どれどれ? 見せてモモっち」
放課後の教室、残暑の余韻を残そうと躍起になっている太陽が西を向いている窓から覗きこむ。
西陽のまぶしさを避けるように手のひらをかざして、アキちゃんと呼ばれた胸が大きいメガネの女の子は、友達のモモがぐいっと押し付けてくるスマホの画面を凝視する。
そこには、駅のホームに貼られた真新しい広告が写っていた。
「コレってさ、テレビで宣伝してる清涼飲料水の新製品だよね。未だアキちゃんゲットしてないでしょ? 後でメールしとくね」
「うん、ありがと。確かに、まだ集めてない広告だね」
そう言って、アキはセーラ服の胸に食い込んでいたスマホをそっと押し返す。
長身のモモは押し返されたスマホをスカートにしまうと、目を合わせるように腰を落としてアキのメガネの奥を覗き込む。
「アキちゃんも凄いよね。デザインの勉強になるからって、街中の広告写真をスマホで集めてるんだもの。さすが勉強大好き、みんなの委員長だよ。うんうん」
「うーん。そんな事ないよ。ちょっと気になる広告を見つけたら、遠くからそっと写真撮らせてもらうだけだよ。そうやってたら、いつの間にか写真が集まっちゃっただけ──」
モモの情愛のこもった視線を避けるように目をそらすと、アキは自分のスマホのアルバムアプリを立ち上げて、今まで集めた写真を友達のモモに見せる。
そこには、街のあらゆる場所が写っていた。
駅のホームで電車待ちをしている人達を覆うように貼られた、有名なスポーツ用品の広告。
街角の交差点で信号待ちをしてる人達の背後には、壁を昇る大きな怪物が上映間近の映画を告知している。
スポーツイベント会場でも、入場者の列を誘う超有名スポーツ選手の巨大なポスター。
夏祭りで多くの人達が行き交う近所の神社の向こうに見える巨大なショッピングモールの看板。
そしてなぜか? 学園祭のフィナーレを飾る後夜祭とバックに映る近所のホテルのネオンサイン。
アキがそれらの写真を早送りしていると、上から覗き込んでいて、ふと何かに気がついたモモが、指を使ってスマホの画像をキュっと拡大する。
「ねえねえ。この群衆の中に写ってる男の子って、同級生の田中くんに似てない? どの写真の群衆にも彼が写り込んでる気がするんだよなぁ」
「──!」
真っ赤になったアキの顔を見て、モモは彼女の集めている写真の中身を察する。
「あー、ごめん、アキちゃん。あの人の写っていない写真は、要らないよね。コレからは田中くんが写り込んだ写真だけを持って来るよ!」
身長差の関係で、頭をボリボリかいてニヤニヤしてる長身のモモのお腹のあたりをポカポカと叩く真っ赤な顔をした委員長のアキ。
そんなトマトのような委員長の背中を、弱くなった西陽が優しく照らしていた。
(了)
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