言えっつってんだろ!

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言えっつってんだろ!

「へ、へへ、や、やったぞ・・・」 憧れのあの人の家に入れた。ベランダから入れた。 なんて素敵な空間なんだ! あの人が暮らしている、あの人の家だ! 「ただいまーっと。誰も居ないんだけどね・・・」 あの人が帰ってきた。僕は大急ぎで玄関へ向かった。 「えっ!?」 「お、おか、おかえり・・・」 「ああ、ただいまー」 あれ? ちょっとは驚くと思ったのにな。 「ねえ、お腹空いたんだけど、ご飯は?」 「えっ?」 「はあ? 『えっ?』じゃないよ。ご飯作ってないの?」 「あの、うん、作って、ないです・・・」 「はああ? じゃあお風呂は?」 「えっ、あの・・・」 「お、ふ、ろ、は!?」 「わ、わかしてないです・・・」 「ッチ!! はああ!? なんだこいつ使えねえなァ!! ご飯もない!! お風呂もない!! お前!! 人の家に不法侵入しといてなにやってたの!? 可愛い女の子襲っちゃうぞーってか!? ちょっとこっち来いオラァ!! 徹底的にボコって教育し直してやるッ!!」 「ひっ!? ちょっと待って、あっ!!」 前髪を掴まれ、リビングへ引き摺り戻される。そのあとはもう散々だった。憧れのあの人の、いや、彼女のあまりの怒号と暴れる音に近隣住民が警察を呼んだが、僕は不法侵入、ストーカーの現行犯で逮捕。彼女は過剰防衛ということになったが、それでも周りに同情されていた。僕は全治六カ月の怪我を負ったというのに。病室では両親に泣かれ、『絶縁すると管理をしなかった私達が責められる』という理由で両親と暮らして自由のない日々を送ることが確定した。 「はあ・・・」 退院日、両親に両脇を挟まれて父の車に乗ろうとした時だった。 「おかえり」 「ひっ!?」 かつての『憧れのあの人』が僕と両親の背後に居た。 「おい、ただいまって言えよ」
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