時、動き出す

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遠くの山の輪郭がかすかに見えるが、それも霧の中に溶け込んでいた。俺の中にあるのは、凛がいないという事実だけで、それ以外のことは、今はどうでもよくなっていた。 その時、ふと目の前の木々の間から、凛と同じ歳くらいの女の子が現れた。 「君、一人で登っているの?」 俺は近づいて、思わず声をかけていた。 彩香も俺の声に気づいたようで、目を細めて俺と同じ方向を見つめた。少女は微笑んで答えた。 「佐々木沙耶です。心配だったら一緒に登ってください」 俺は彩香をちらりと見たが、彼女の目はわずかに揺れて、戸惑いを隠せないでいた。彩香とはしばらく会っていなかった。あの戸惑いは、二人っきりで登ろうとしたのに邪魔者が入ったからだろうか。しかし、こんなところにこの子を置いてはいけない。 「君は高校生かい?」 「はい、二年生です」 「そっか、妹と同じ歳だ」 彩香の表情はより一層不安げになっていた。沙耶を見て俺が妹を思い出して落ち込むと思っているのだろう。 「彩香、あの子も一緒でいいだろ。俺なら大丈夫だ」
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