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「ううん、なんでもない。ただ、ちょっと眺めが良くて見入っちゃった」
彩香はそう言って、手で軽く額の汗を拭う。俺は気にせずに前を向き直し、沙耶のいる場所に向かって歩き続ける。彩香もそのすぐ後をついてくるが、彼女の足音は少しずつ遅れがちになっているように感じられた。
途中、木の根が露出している急な斜面に差し掛かったとき、沙耶が先に足を踏み出した。
「こっちの方が安全ですよ」
俺は彼女の指示通りに進む。彩香にも、このルートがいいみたいだ、と声をかけた。彩香は少し足元を見ながら俺の後を追う。
「本当にそのルートでいいの?」
彩香が小首をかしげる。
「ああ、沙耶ちゃんの判断で間違いないと思う」
彩香はポケットからお守りを出して自分のおでこにつけて目を瞑った。まあ、女子高生の判断に従うということに大人としてどうかと思ったのだろう。
俺たちが少し開けた場所に出ると、沙耶が突然足を止めて振り返った。
「あ、ここにベンチがある。少し休みませんか?」
俺はその提案に頷き、彩香の承諾を得るために振り返った。
「いいだろ、彩香」
「何が?」
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