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「うん。凛ちゃんは、すぐに成仏したから安心して。私はどうしてもこの山に登りたくって」
「陽奈ちゃん、ごめん。全部俺のせいだ。俺が行けなくなったからって、映画のペアチケットを凛にあげたから」
「運命だったのよ。凛からの伝言を預かってるんだけど、『お兄ちゃん、自分を責めないで。お兄ちゃんのせいじゃないよ』って。あの映画、すごく面白かったんだよ。感動しちゃって……」
沙耶が俺の手を取るように近づいてきた気がしたが、その瞬間にはもう彼女の姿は風に溶けて消えていた。俺はただ空虚な空間を見つめるしかなかった。
「消えた……」
思わず言葉を漏らした。
彩香がそっと俺の肩に手を置いた。その温かさが、現実のものとして俺に返ってくる。彩香の手は確かにそこにあったというのに、俺の心はまだ消えていった沙耶の姿を追い求めていた。
彩香は何も言わず、ただ俺の隣に立っているだけだった。俺たちは言葉もなく、ただ頂上から広がる景色を見つめていたが、その美しさすらも俺には届かない。
「本当にいたんだね。凛ちゃんの友達だったの……」
俺はしばらく動けなかった。彩香の言葉の意味がわからなかった。
「本当にいたんだねって、どういうこと?」
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