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「狭間……」
「鈴木さん」
驚き、おもわず言いかけた直道に声をかけ、言葉を遮った。直道も例の火事の一件のことを思いだしたのか口をつぐみ、視線を下げた。マスターだけがこの状況から漂う微妙な空気の意味を測りかねるように、眉間に皺を寄せている。
場がしばらく静寂に包まれた。
テルの表情は、暗く黒く一日の終わりを迎えようとしているなかでも変わらず身につけているサングラスに目元が隠され、その感情を窺い知ることはできない。
テルの一歩踏みしめた足音とともに、一枚の紙がテルの真っ黒なズボンのポケットの辺りからひらひらと舞い、落ちていくのが見えた。輝がそれを拾い、その紙切れに、なにか手書きで文字が書かれているのに気づく。落ちましたよ、と一言声をかけつつ、テルに渡す。紙に書かれた手書きの文字を見、急に、テルはつけていたサングラスを荒い手つきで外した。自らの素性を知っている直道が、目の前にいるのにも関わらず。そんなことより、今手にしている一枚の紙切れの存在の方が、よほど重要だと言っているように、輝には見えた。
カチリ、という物音。テルが持っていたサングラスが、店内の床へと落ちた音。
これほどまでに驚愕に歪む彼の表情を目の当たりにしたのは、初めてだった。
「どうしました?」
落ちたテルのサングラスを拾いつつ、輝は彼の手元の真新しい紙切れを、そこに書かれていた手書きの文字を、のぞき込んだ。
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