こやま

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こやま

 縁側の方からザクザクと土を削る音がする。あたしは駆け足で向かうと十歳の孫がニコニコと笑っていた。お昼に出しておいた角砂糖の袋がないことに気づくのが遅れたのがいけなかった。 「これ!!光夫(みつお)なにしたの?」  光夫はあたしに気づくと、シャベルをそっと置き、縁側に座り込み、緑色のノートを見開いて見せる。 「ばあちゃん、自由研究の邪魔しないでよ!!」  自由帳にはアリの気持ちにでもなったかのようにセリフが書かれていて、カブト虫が角砂糖を奪っていった旨まで細かに書かれている。 「アリの研究かい?」 「そうだったんだけどさーやめたんだよ」  崩れた山にはアリがわらわらとさ迷っている。色違いのアリとアリとが戦いを始めんばかり。 「やめたって?」 「アリの行列の研究なんて、他の男子もしそうじゃん?僕が観察して邪魔しようとしたら、アリって、凄いんだね!!僕の足を避けるんだよ」  孫がしていたことにぶるっと鳥肌が立つ。まるで悪気がない。 「アリの気持ちになってみなさい!!光夫」  言葉を強めて怒ると、だからなっているとばかりに鉛筆で書いた会話を見せつけてくる。 「アリの気持ちになって想像もしたよ?自由研究なら想像もありでしょ?」  反抗期に差し掛かっているとは聞いていたが、ここまでとは。  あたしは、ぐっと言葉を飲み込んで聞いてみる。 「光夫、何の自由研究だったんだい?」 「ばあちゃん、わからないのぉ?」  人を小馬鹿にしたようにクスクス笑う孫はあの可愛かった光夫だろうか?  真顔になった光夫が微笑みながら大声で言い張る。 「弱肉強食についてだよ?ばあちゃん」  小山を作っていたときは幼子に戻ったのかと思っていた。けど、違う。光夫の考えが恐ろしいことなのだと伝えなければ、人から逸れた子供になってしまう。 「光夫、よーく聞きなさい!!角砂糖を無駄にしたことよくないよ。アリの進路を邪魔しちゃいけないよ。光夫には優しい子になってほしいんだよ」  小山をザクザクと容赦なく抉るような恐ろしい子にもう二度となりませんようにと、あたしは言い聞かせるのでした。 おわり
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