竜族の国、ドレージア

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「その、服は」  ふいにイーヴが声をあげたので、シェイラは一瞬身体を震わせて顔を上げた。 「はい」 「エルフェが選んだのか、その服は」  不似合いだと言われるのかと思ったが、見つめるイーヴの視線は案外柔らかい。シェイラは、黙ってこくこくとうなずいた。 「よく似合ってる。ただ、少しシェイラには大きいと聞いた。明日には仕立て屋を呼んで、身体に合うものを新しく作らせるから」 「そんな、このままで平気です。新しいものなんて……、必要ないです」  首を振るシェイラを見て、イーヴは少しテーブルに身を乗り出した。体格のいい彼がそうすると、それだけでシェイラとの距離がぐんと近づいたような気がする。驚いて思わず身を引くと、イーヴは慌てたように椅子に座り直した。 「ここは、ラグノリアとは違う。ドレージアの民は迎え入れた花嫁を大切にすると決めている。シェイラを生贄だと思う者は、ここにはいない」  イーヴの口から直接、生贄ではないと断言されて、シェイラは小さく息をのんだ。彼の言うことを、信じてもいいのだろうか。 「本当……に?」  それでもまだ不安に声を揺らしながら、シェイラはつぶやく。 「私は、生贄として喰われるのではないんですか?」 「喰う……? それはないな。そもそも竜族は、人を喰わん。竜に姿を変えることはできるが、それ以外はシェイラたち人間とそんなに変わらないぞ」  酷い誤解だなとイーヴは苦笑した。少し釣り上がったその目は冷たそうなのに、見つめる金の瞳は柔らかな色をしている。 「だからシェイラ、怯えないでくれ。俺はシェイラを喰ったりしないし、もちろん傷つけるようなこともしない。こんな顔だから仕方ないんだが、怖がらないでくれると……嬉しい」  そう言って笑みを浮かべたイーヴの表情は、やはり凄みがあって少し怖い。だけど、彼はラグノリアからここへ連れてくる時も、ずっとシェイラを気遣ってくれた。きっと優しい人なのだろう。  こくりとうなずいたシェイラを見て、イーヴの視線が更に柔らかくなったような気がした。
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