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木陰でうしろからイーヴに抱きしめられるように座って、シェイラはもらったばかりの本を開く。わくわくしながら読み進めていたものの、背中に感じるぬくもりと頬をくすぐる風、それから髪を梳くように撫でる手が心地よくて、いつしかシェイラはぐっすりと眠っていた。
「ん……ごめんなさい、すっかり寝ちゃってた」
目を擦りながら見上げると、イーヴの小さな笑い声が降ってきた。冷えないようにと彼の羽織ったマントに包まれていて、そのあたたかさに幸せな気持ちになる。
「よく眠ってたな。昨日はちょっと寝つきが悪かったからな、そのせいかもしれない」
ラグノリアに行って別れを告げてくることはずっと前から決めていたけれど、それでも少し緊張していたのか昨晩はあまり眠れなかったのだ。隣で眠っていたイーヴには、気づかれていたらしい。
「イーヴに抱きしめられてると、あったかいから眠たくなっちゃった。でもイーヴは動けなかったですね、ごめんなさい」
「問題ない。シェイラの可愛い寝顔を見つめてるだけで楽しかったよ」
甘い表情でそう言われて、涎を垂らしたりしていなかっただろうかとシェイラは慌てて口元を押さえた。
そんなシェイラを見てくすくすと笑いながら、イーヴがこめかみにそっと唇を押し当てた。
「シェイラに渡したいものがあるんだ。誕生日のお祝いに」
「もうたくさんもらってるのに」
「プレゼントは、いくつあっても構わないだろう。シェイラが今まで誰にも祝ってもらえなかった分、俺がたくさん祝いたいんだ」
大きくてあたたかな手がそっと頬を撫でたあと、シェイラの左手を取った。
誕生日を祝ってもらえなかったことを悲しいと思ったことすらなかったけれど、今年からはシェイラにとって特別な日だ。自分の生まれた日であり、故郷のラグノリアに別れを告げた日。ある意味、竜族と共に生きていくことを決めた新たな誕生日なのかもしれない。
そんなことを考えていると、左手の薬指に何かが滑らされた。
「気に入ってもらえるといいんだが」
「わぁ……指輪」
それは、透き通った青い指輪だった。中央に飾られた丸い石は金色で、まるでイーヴの瞳のようだ。ほとんど確信を持ちつつも、シェイラは指輪に触れながらイーヴを見上げる。
「もしかしてこれって、イーヴの鱗から作られてる?」
「あぁ。シェイラに贈るなら、どうしても自分の鱗を使ったものにしたくて」
「嬉しい。バングルとお揃いですね。ずっとイーヴと一緒にいるみたい」
そっと指輪に唇を押し当てると、イーヴが小さく笑った。
「俺も、ずっとそばにいるけどな」
「ふふ、その通りですね。それでも嬉しいの。この指に指輪を贈られるって、本で読んでずっと憧れてたから」
「シェイラが本を読んで憧れたことは、何でも叶えてやる」
「私、きっと今まで読んだどのお話の主人公よりも幸せです」
指輪の光る手をかざしながら笑ってそう言うと、うしろから抱きしめた腕が強くなった。
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