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背後でイーヴが身じろぎする気配を感じて、シェイラは読んでいた本を閉じると彼を振り返って見上げた。
「おはよう、イーヴ」
「あ……ごめん。今度は俺が寝てたな」
「大丈夫ですよ。本当は膝枕とかしたかったんだけど、重たくて無理でした」
「シェイラを抱きしめてるとよく眠れるから、つい」
「私もイーヴに抱きしめてもらうとよく眠れるから、一緒ですね」
くすくすと笑いながら、シェイラはゆっくりと立ち上がった。空が赤く染まり始めていて、まもなく陽が落ちそうだ。微かに瞬き始めた星に誘われて、光虫がふわふわとあたりを漂い始める。虫と呼ばれているものの生物ではなく、日暮と共に淡く輝きながら何をするでもなく宙を泳ぎ、翌朝には塵となって消えてしまうという。
「シェイラ、上着を」
同じく立ち上がったイーヴが、うしろから上着を着せかけてくれた。イーヴに抱きしめられていたから気づかなかったけれど、随分と気温が下がってきている。
ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで、シェイラは上着をしっかりと羽織る。
「そろそろ湖の島に向けて出発しようか。夕食までには戻らないとな。アルバンが張り切って支度をしてるはずだ」
「うん。星、見えるかな」
「今夜は天気がいいから、きっとな」
くしゃりと髪を撫でたあと、シェイラの手を取ってイーヴが歩き出す。出発するのかと思いきや、彼はそのまま花畑の方へと向かった。
「ランタンも持ってきてるが、シェイラはこっちの灯りの方が好きだろう」
そう言って、イーヴが花を摘んでシェイラの手に持たせた。髪にも飾ってもらった釣鐘状の花は、確かにランプシェードのような形をしているけれど、さすがに灯りの代わりにはならない。
どういうことかと首をかしげたシェイラに笑いながら、イーヴは周囲を飛ぶ光虫を捕まえると花の中へと入れた。薄紅色の花弁を透かした柔らかな光が広がって、周囲がほんのり明るくなる。
「わぁ、お花の灯り……!」
「光虫が逃げないように、そっとな」
イーヴの声かけに、花を揺らさないよう気をつけながらシェイラは両手で慎重に茎を握りしめた。
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