【後日談】シェイラの誕生日

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「すごく、幸せな誕生日だったな。大好きな人にお祝いしてもらえるのがこんなに嬉しいなんて、知らなかった」  「これからは毎年、たくさんお祝いしよう」 「うん。イーヴのお誕生日も、お祝いさせてね」  振り返って見上げるとイーヴの金色の瞳が細められ、優しく唇が重ねられた。 「帰ったら、きっとルベリアも来てる。皆、シェイラの誕生日を祝いたくてうずうずしているはずだ」 「わ、嬉しいな。大好きな人たちと過ごせるのって、幸せ」 「俺の我儘で、日中はシェイラを独り占めさせてもらったからな。夕食は皆で食べよう」 「ふふ、我儘なんて。私も、イーヴと二人きりで過ごせて幸せでしたよ」 「夕食が終わったら、また二人きりで過ごそう。ベッドの上でもシェイラをお祝いしないといけないからな」  艶めいた声で囁かれて、シェイラは笑ってうなずく。独占欲を隠そうとしないイーヴの発言が嬉しくてたまらない。 「たくさん、ぎゅってしてくれると嬉しいな」  うしろから抱きしめたイーヴの腕に唇を押し当てながらつぶやくと、彼が驚いたように小さく息を吸うのが聞こえた。 「本当に……シェイラは俺の理性をどれだけ崩したいのか」 「だって、イーヴに抱きしめられるのも、くっつくのも、大好きなの」 「そんなこと言われたら、本気で寝かせてやれなくなる」  肩を震わせて笑いながらも、冗談とも本気ともつかない口調でそう言ってイーヴはシェイラを抱き上げて立ち上がった。その拍子に、カップに挿していた花から光虫がふわふわと舞い上がった。 「最後に湖の上を一周してから帰ろうか」 「うん!」  光虫の放つ淡い光に包まれながら、イーヴはシェイラの額にひとつキスを落とすと、竜に姿を変えた。  夜空の広がる湖面に、イーヴの黒い影が映る。あとを追ってきた光虫が光の軌跡を描きながら、星空に紛れて消えていくのを見送って、シェイラはイーヴのたてがみに頬を擦り寄せた。 「本当にありがとう、イーヴ」 「どういたしまして。だけど、誕生日はまだ終わってないぞ」 「うん。でも、あらためてお礼を言いたかったの。私の誕生日も大事な日なんだって、イーヴが教えてくれたから」 「まだまだ祝い足りないくらいだけど、これからも毎年お祝いしよう。竜族は長生きだからな、何百回も祝えるぞ」 「本当ですね。嬉しいな、長生きの夢が叶うだけでなくて、誕生日もその分増えるなんて」  番いの証をもらって良かったと、シェイラはつぶやいて首筋の痣と胸元の鱗にそっと触れた。そして再びたてがみに顔を寄せると、小さく息を吸った。 「ねぇ、イーヴ」 「うん?」 「私もいつか、竜になれたりしないかな」 「え?」 「ほら、そうしたらイーヴと一緒に空を飛べるかなって」 「そうだな……、さすがに竜化するのは難しいかもしれないけど、でも」 「でも?」  言葉を切ったイーヴは、ちらりと視線をシェイラの方に向けた。大好きな、丸い月のような金の瞳の中に、シェイラが映っている。 「俺たちの子供は……きっと竜になれると思う。竜族の血は、濃いから」 「子供……」  小さくつぶやいたシェイラの頭の中に大空を翔ける大小の青い竜の影が鮮やかに浮かび上がる。まるで本当に見たことがあるかのように鮮明なその光景に、思わず息が止まった。  大きな青い竜のそばにある小さい竜の影は二つ。地上から眩しくそれを見上げる自分の姿も見たような気がして、シェイラは思わずイーヴに強く抱きついた。 「素敵。いつかきっと、そんな日が来ますね。子供の背中に乗せてもらったりできるかな」 「シェイラを背に乗せる役目は、たとえ我が子でも譲る気はないけどな」  独占欲の強いその発言に、シェイラは笑ってうなずく。 「うん。イーヴがいれば、私はいつだって空を飛べるもの。いつまでも、こうやって背中に乗せてね、イーヴ」 「もちろんだ」  約束のキスの代わりに、シェイラはイーヴと頬を合わせて笑いあった。  降るような満天の星の下、青い竜はゆっくりとドレージアに向かって飛んでいった。 ◇    帰宅したシェイラを屋敷の面々とルベリアが出迎えてくれ、その夜は盛大なパーティが開催された。  ルベリアとエルフェは可愛い服を大量に贈ってくれたし、レジスはたくさんの本をくれた。アルバンは手の込んだ御馳走のほかに、天井に届くのではと思うほどに巨大なケーキまで作ってくれた。  ただ、こんなに幸せな誕生日は生まれて初めてだと、大喜びするシェイラを最初は優しく見守っていたイーヴも、食事を終えたシェイラがお酒に手を伸ばしたあたりから雲行きが怪しくなった。  成人しているのだから、シェイラだってお酒を飲んでも問題ないだろうと絡むルベリアから逃げるように、もう寝る時間だからとあっという間に寝室へと連れて行かれたシェイラは、もちろんそのまま寝かせてもらえるわけもなかった。  翌日は、昼を過ぎても起き上がることのできなかったシェイラの状況を知ったレジスとエルフェに、イーヴがこってりと絞られたのは、また別の話。
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