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「……お姉、様?」
「久しぶり、マリエル。元気そうでよかった」
イーヴの背から降りたシェイラは、久しぶりに会う妹に抱きついた。驚きに見開かれていたマリエルの瞳にはみるみるうちに涙が溜まり、頬に流れ落ちる。
「お姉様、無事で……」
「うん。竜族の国で、良くしてもらってるわ」
「わたし、喰われてしまったかと、思って……」
泣きじゃくる妹の背を撫でて、シェイラは大丈夫だと囁く。
「あのね。今日私がここに来たのは、ラグノリアを守る結界について話をしたかったからなの」
「結界に……?」
まだ瞳に涙を溜めたまま怪訝な表情を浮かべるマリエルに、シェイラはうなずく。
この先も生贄として育てられる子供が出ないように、このしきたり自体を無くしてしまいたいとシェイラは考えたのだ。
竜族としてもラグノリアからの花嫁を求めているわけではないし、かつての恩を忘れない竜族は、この先もラグノリアを守ると決めている。
それならば、シェイラがラグノリアに捧げられた最後の花嫁となればいい。
ドレージアに来て初めて、シェイラはラグノリアでの扱いが酷いものであったことを知った。そのことを今更どうこう言うつもりはないけれど、同じような目に遭う子供がこの先出ることは望まないから。
「竜族は、これから先もずっとラグノリアを守るわ。そして、そのために生贄を捧げる必要はないと伝えにきたの」
「生贄が必要ない……。本当に?」
「うん。その証に、これを」
シェイラは、すぐそばでじっと待っているイーヴに近づくと、首元の鱗を一枚取った。青く光る鱗は、シェイラの手のひらよりも大きい。
「竜の、鱗?」
「これまでに捧げられた生贄への感謝を込めて、この鱗を竜族から贈るわ。聖女であるあなたなら分かるでしょう、この鱗にどれほど強力な保護魔法が込められているか」
差し出された鱗を、マリエルは震える手で受け取った。恐る恐る検分するように撫でた彼女は、小さくうなずく。
「確かに、強力な保護魔法を感じるわ。これがあれば、国の結界は今よりずっと安定する」
「きっとマリエルの負担も減るでしょう。だからもう、生贄なんて必要ないの。竜族は、とても心優しい種族よ。人を喰ったりしないし、私のことも大切にしてくれる」
穏やかに微笑むシェイラの表情を見て、マリエルもそれが真実であると理解したのだろう。だけど、その表情はあまり晴れない。
「それなら、お姉様は……戻っては来られないの? 生贄が必要ないというなら、お姉様も」
「私は、ラグノリアには戻らない。これから先も、竜族の国で生きていくわ」
「でも、それじゃあまるでお姉様の代わりにこの保護魔法を手に入れたみたいだわ……そんなのって」
泣き出しそうに顔を歪めるマリエルは、やはり優しい子だ。その優しさを嬉しく思いながら、それでもシェイラは首を振る。
「大丈夫。私は今、すごく幸せだから。元気でね、マリエル。これから先もずっと、あなたたちを見守ってるわ」
最後にぎゅうっと抱きしめて、シェイラはマリエルから離れた。自分と同じ顔をした妹は、今のシェイラと同じくらいに元気そうだ。きっと幸せにやっているのだろう。微かに目立ち始めた彼女のお腹にそっと触れて、シェイラは祈るように目を閉じた。
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