らしくない君と僕

1/1
前へ
/1ページ
次へ

らしくない君と僕

「お待たせいたしましたぁ。特製シチューと本日のケーキセットですぅ」  店員が気だるげに料理を置いた。その目がちらりと窓の外に向けられる。壁や窓に遮られていても雨音は店内BGMと張り合うほどで、ガラス窓をつたう水は滝のよう。  予告なしのゲリラ豪雨はもはや夏の風物詩かもしれない。僕はハンカチで髪を拭き、ずぶぬれなそれをコンビニのレジ袋に放り込んだ。二人がけの席の向かいでは隆文がおしぼりでごしごし顔を拭いていた。  夏休みの終わり。彼女なし予定なし暇ありの僕らは、新学期に必要なノートだかなんだかを買いにいくという名目で親から小遣いをもぎ取り、ぶらぶら遊び回るはずだった。 「荷物は濡れてないな」  隆文が紙袋の中身をチェックして胸を撫で下ろす。ノート類はどうでもいいけど漫画の最新刊を一滴でも濡らしてなるものかと意地を張った甲斐があったらしい。 「風邪ひくなよ隆文」 「お互いにね、晶」  そう言い合って、同じタイミングでくしゃみをする。とにかく雨宿りしようとファミレスに飛び込んだものの、雨に降られた僕たちにエアコンのきいた室内は寒すぎる。  僕はとにかく温かいもの。あと普通におなかすいた。  隆文は甘いもの。  そんな希望のもと注文したけれど、オレンジタルト&ショートケーキは僕の目の前。隆文の前ではビーフシチューが香ばしい香りを漂わせている。  僕とこいつが一緒にいるとよくある間違いだ。  空手部で活躍している隆文は筋肉質で顔もいかつい。文芸部でのんべんだらりとしている僕は骨格も髪もひょろひょろ。塊の肉がごろごろ入ったビーフシチューと繊細なケーキがあれば、誰だってビーフシチューを頼んだのが隆文だと思う。  見た目で決めつけんじゃねえよと反発するのもバカらしい。僕はケーキの皿を対面に押し出そうとして、ふと手を止めた。  隆文はいかつい顔をくしゃくしゃにして苦笑いしている。  見た目よりも繊細なこいつは、ぼく以上にいろんな事を気にするんだ。たかだかファミレスの注文ごときで自分らしさにくよくよ思い悩んで、そんな気の小さい自分を嫌悪して、そういうのを表に出して困らせたくないから笑って。  そういう不器用な奴だから放っておけず十年近く友達をやっている。  僕の席からはドリンクバーが覗けて、セルフサービスの取り皿がその近くにあるのもチェックできた。僕は飲み物を取りに行くついでに取り皿をふたつ調達する。 「やっぱ温かいもんも食いたい。ショートケーキとオレンジタルト、どっちかやるよ」  らしくないチョイスに見えるとしても二人で両方平らげてしまえばどうってことない。  隆文はやっぱりいかつい顔をくしゃくしゃにして、今度は肩の力を抜いて笑った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加