台風

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今日、世界が終わるって知ってたら。私はどうしてただろう。 まぁ知る由もないんだけども。 もしもの話だ。 もし。 知ってたら。 「……知ってたとして何ができるんだろ」 私は野ざらしの猫を見つめながら思った。 風に飛ばされそうになっているせいか、鳴き声がか細く聞こえた。 「君はこの世界が終わることを知ってるのかな?」 猫は一瞬だけこちらを見つめた。 だが、その目と目を合わせる前に猫は飛ばされていく。 「…はは…」 私はフードを深く被った。 そして今まで座っていた地べたからたつ。 尻のあたりが雨で濡れていた。 私は振り続ける雨に打たれながら歩いた。 台風がきているのだ。 台風が来てるから世界が終わる?そんな安直じゃない。 今日世界が終わるんだ。 ただそれだけ。 私はハイヒールを脱ぎ捨てた。 そこら辺にころがっていく。 ストッキングを地面につけて走った。 雨が体を強く打ち付け、風が髪をさらっていく。 「…なんで私だけ知っちゃってるんだろ」 世界が終わること。 「あーぁ…悲しいなぁ……」 はは。 乾いた笑い声だ。 手を大きく広げ風を受けた。そのまま道路に倒れ込む。 「どうやって終わっちゃうんだろうなこの世界」 ただ世界が終わるって聞いただけ。 方法も時間も知らない。 道路に塗れた髪が張り付く。 ……それは突然だった。 感想も言葉も何も出る暇もなく、世界は闇に包まれた。 人々が声を発する余裕もなく突如終わった。 闇に包まれた世界に光った一足の靴。 それは彼女のハイヒールであった。 結局、世界の終わった理由は証明できていない。 完
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