二人の部屋

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 「ただいま」    靴を脱ぎながらそう言うと、奥から「お帰り」という妻の声が聞こえた。結婚してこの部屋で暮らすようになって3年目。引っ越したばかりの頃は不思議な感じだったけれど、今ではここが自分たちの家なのだと実感できる。奥から笑顔の妻が出てきて「お疲れさま」と声をかけてくれた。  しばらくして、僕は妻と共に食事をしていた。僕たちは食事中にテレビをつけたりはしない。いつもお互いに、その日にあったことを話しながら食事をする。そうしたい、と決めたのは妻だった。僕は仕事が忙しい方で、帰ってくる時間も遅いから、二人でいられる時間がなかなかない。食事の時だけでも色々話をしたい、というのだった。最初は、そんなに話すことなんてあるだろうか、と思っていたけれど、実際のところ、話すことは色々あった。といっても、たくさん話すのは妻の方だ。妻は、その日あったことを、いつも面白おかしく話してくれる。結婚してこの部屋で暮らし始めてから、いつもそうだった。仕事で疲れていても、仕事で嫌な事があっても、妻の話を聞いていると元気が出る。だから僕は、この食事の時間がとても好きなのだ。  食事を終えると、僕はお風呂に入り、その後はリビングのソファで新聞を読んだりしながらくつろぐ。こういう時は妻は、むやみに話しかけてきたりせず、自分も何か用事をしたり、テレビを見たりしている。そんな妻の様子を時々ちらちらと見るのも、僕は好きだった。そうして、たまに彼女が僕の視線に気づき、こちらを見てニコリと微笑む。そんな些細な事にも幸せを感じる。  しばらくすると、妻が側に来て、缶ビールをガラスコップに注いでくれた。妻が美味しそうにビールを飲む。そして僕に話しかけてくる。週末どこかに出かけようよ、という話だった。いいね、と頷きながら僕は妻の話を聞く。妻は、楽しそうに出かける計画の話をする。でも、本当に行くわけではない。僕が忙しくて、週末もなかなか時間が取れないからだ。妻もそれは分かった上で、ただこの時間を楽しむために、そんな話をしている。妻には申し訳ない、いつか仕事が落ち着いたら、きっと妻と出掛けよう、なんて思いながら、僕は妻の話を聞く。  そうして遅くなってきたら、僕達は寝室に向かう。二人で並んで眠るのだ。彼女が側にいるのを感じながら、僕は眠りにつく。今日も幸せな一日だったなぁと思いながら。
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