二人の部屋

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 「これがご両親から送られて来た、先日の夜の映像です」  と、モニタの傍に立っていた部下が言った。ところどころ早送りをしながら、撮影された映像を見終わったところだった。それは、ある人の夕方から夜眠るまでの部屋の様子を映した映像だった。部屋のやや高い所から、恐らく隠しカメラのようなもので撮られた映像のようだった。  なるほど、と私は声を漏らした。こんなプライバシーにかかわる映像を撮るのは、たとえそれが親族だとしてもあまり良いことではないだろうと思う。しかし、心配になるのも分かる。私だってもし自分の子どもが同じ状況だったら、撮影まではしないにしても、心配で何とかしなければ、と考えるだろう。  その映像には、一人しか映っていなかった。そしてその一人は、まるでそこに誰かがいるかのように話しかけたりしている。たまに一人で行動をすることはあっても、まるで側に誰かがいるかのようにふるまっていることが多かった。  「たまに、ふと現実を思い出したかのように涙を流してぼんやりとしている時もあるそうです。しかし、暫くするとまたこのように、まるでそこに誰かがいるかのようにふるまい始めるそうです」  部下がそう話すのを、私は軽く手を挙げて制止する。それについては既に報告を読んでいる。親がこの様子に気付いたのは、数週間前。心配になって暫く一緒に暮らそうと話したが、断られ、ほうっておくわけにもいかず、何かしなければ、と部屋にカメラを取り付けたのだという。  確かにこのままほうっておくわけにはいかないだろう。しかし、恋人を事故で失い、その現実を受け入れられずに、まるで恋人がそこにいるかのようにふるまってしまうというのは、ドラマでしか見ないような症状ではあるが、稀にあることだ。そして解決するには時間がかかる。  しばらく様子を見るしかない。親にもそう伝えるしかない。私はそう思った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加