二人の部屋

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 「ただいま」  と、今日も僕は家に帰り、奥に向かって声をかけた。「おかえり」という声が聞こえて、妻が顔を出す。夕食を取り、お風呂に入って、ソファでくつろぐ。やはりこの毎日が幸せだ。いつもと同じだ。いつまでもこんな日が続けばいいのに。  そんなふうに思っていると、妻が隣に座った。何か話をしてくれるのだろうか。そう思ったけれど、顔を見ると、妻はいつもの笑顔ではなくて、とても悲しそうな顔をしていた。どうしたのだろう。声をかけようとしたけれど、あまりにも悲しそうで、僕は躊躇する。彼女は泣きだした。どうしたの、という声が出ない。なぜなら、僕はその理由を知っている気がするからだ。ただ、それを認めるのが怖い。きっと考え違いだ、彼女は今日なにか悲しいことがあっただけだ。  しばらくして、彼女は手の甲で涙をぬぐい、笑顔を作る。そうして、僕に話しかける。  「ごめんね、突然泣いてしまって」  「ううん、大丈夫」と、僕は笑顔を作って答えた。
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