第1話:虐め社会の行く末は

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「ねぇ、アオネコちゃん。 彼女が『ベット・ユア・ライフ』をクリアできると思うかい?」 一足先に、約束の地に赴いた白澪は、山頂から街並みを見下ろしそのように呟く。 その言葉にアオネコは何も反応を示さないのだが、白澪はそれを承知といった様子で懐から一枚の金貨を取り出しアオネコの目線の先に差し、スラリと長い指先でそのコインを弾いた。 空中で数回クルクルと旋回したそのコインは、白澪の左の手甲に静かに着地する。 「どれどれ……『表』か。なるほどなるほど。 では、僕はノーにベットだ。賭け代は……そうだな、今宵の素敵なディナーというのはどうだろう。スカイツリーが見える隠れ家さ。僕が負けたら君に極上のマグロ缶をプレゼントしよう」   ことある毎に賭け事を提案してくる白澪に、アオネコは少し退屈気に伸びをすると毛繕いを始める。その横で、白澪は腕を組み山頂へと続く道をゆったりと眺めた。 「まぁ、ここまで自分の意思で来られないようではこの賭けも成立しないわけだが――」   白澪は視線の先に小さな人影を見つけ、小さく笑うと言葉を遮りこちらに向かってくるのをゆったりと待つことにする。 人影もまた白澪を視界に捕らえたのか、ゆったりとしたペースであった歩幅も早歩きから駆け足へと推移し、白澪を求める意志の強さが見て取れる。 息を乱しながら約束の地に到着したスミレを見た白澪は女神の顔が施された懐中時計を取り出し、時間を確認すると、満足気な笑みを浮かべた。 「グレイト、素晴らしい。約束の五分前だ。どうだい? 少しは自分の未来について考えられたかな?」 「たった一時間じゃ、そんな考える余裕なんてないよ。ここに来るって決めて来るだけで精一杯だったんだから。あと一、二時間あれば選択だって変わったかも」 「ノンノン。時間があれば選択は違ったって? それは違う。人には潜在意識ってものがあるんだ。この一時間で君はその潜在意識に向き合ったのさ。僕が捧げたこの一時間は、君にとってかつてなく濃厚で優雅な時間だったと思うが……さて、スミレと言ったね。運命を変えたいと願うその気持ちは本物かな?」 「本当に運命を変えることができるなら……」   自信なさげに語るスミレに白澪は笑いかけながら、その周囲をゆったりと歩き始め、持論を語り始めた。
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