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輪廻転生センターの長
「長、ただいま」
「おや? 今回は早かったね。息災でいられなかったかね?」
「なんか自殺エンドでさ。生きづらかった」
「そうかい。今度は平穏な人生になるといいな」
ここは、あの世。輪廻転生センター。毎日のように魂が出入りをする。
「長、新しい人生にいってきます」
「なるべく長生きしなよ。あまり早く帰ってこられると心配しちまうからね」
「はーーい」
輪廻転生センターは現代で言うならば学童のような場所。魂とは総じて無邪気である。いくつもの魂を見送り迎え入れる輪廻転生センターの長は人間の女性の見た目をしている。口寂しいとキセルを咥えているが喫煙者ではない。やることは魂たちを眠らせることと食事を作ること。あとは自由にさせて現し世に呼ばれるまでただ遊ばせている。
もちろん長以外の職員もいて人間の見た目をしている。
「長、774の帰還が遅いようです。確認しに行きますか?」
「おや。人生満喫しているんじゃないかい? 心配かい?」
「……はい。予定を大きく過ぎてこちらに戻った魂は穢れる場合もありますから。息災に生きているならば安心ですが」
「そうだな。どれ私がちょっくら見てくるよ」
「え!? 長自ら外界に潜る必要ないですよ! 僕が行きますから!」
「たまには私にも羽根伸ばさせてくれよ。可愛い魂がどんな人生歩んでいるか見てみたいしね」
「そう言うなら……。でも魂の人生に干渉しちゃ駄目ですからね! 長が退職する羽目になりますよ!」
「それは私があんたに教えたことなんだから知ってるに決まってるだろ? あんたは心配しすぎだ」
「自由人だから……」
「やってはいけないことの分別くらいついてるよ。こいつは預けとく」
長はキセルを職員に手渡して足元の雲に潜っていった。この下は外界。長はゆっくりと地に落ちていく。
ふわふわと長は景色を見ながら落ちていく。長も霊体である。重さなどほとんどない。
くんと鼻をひくつかせて匂いを嗅いでゆらゆらと飛んでいく。
「774はあっちか」
長が774を見つけた居場所は病院だった。ちらりと窓から覗く病室。そこには穏やかな笑みを浮かべた老婦人がベッドに寝そべっている。
「そう言えば774が外界に降りてから九十年以上は経つなぁ」
窓辺の横で長はふわふわと浮かび、さらに様子を伺う。
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