輪廻転生センターの長

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「おばあちゃん、具合はどう?」  774の横に幼い子供が張り付いた。どうやら孫のようだ。 「ええ元気よ。まだまだいっぱい長生きするんだから」 「もちろんだよ! ねぇ聞いて聞いて! 今日、幼稚園でね!」  長はそっと窓辺から離れる。 「いい人生じゃないか。もうしばらく楽しむといいさ。さて、ただ帰るのもつまらないから他の魂の様子も見ようかね」  長は再び鼻をひくつかせる。 「おや、近くに545がいるな。行ってみるか」  長は宙を飛びながら日の暮れゆく町を眼下に眺める。 「発展とは怖ろしいな。こんなにも変わるものなのだな。おや、美味そうな匂いがする」  545の匂いが色濃くなる場所は中華料理屋だった。長はその中華料理屋を宙から見下ろす。窓際の席に座る男子中学生。それが545のようだ。 「おや?」  何かがおかしい。長はじっと眺める。聞き耳も立てる。 「いいか。食べ終わったら1、2の3で逃げるぞ?」 「ふうん」  545と一緒の男子二人は食い逃げの相談をしているようだ。 「あの血色を見れば貧しい訳ではあるまい。545は減点だな。さて次に行くか」  長はまた鼻を引くつかせる。瞬間、身体が引っ張られる。左右を見回すとそこは輪廻転生センター。 「長! 必要ないことまでしてたでしょ!? 帰って来る魂もいるんだから示しがつかないでしょ!?」 「悪い悪い。次はどの子だ?」 「長、ただいまーー」  そう言って入ってきた魂は545だった。 「何があった? さっき食い逃げしていただろう?」 「見てたの? 僕、飛び降りたんだ。その予定の最後の晩餐の半ちゃんラーメンだったんだ……」 「そうか。だが減点だ。悪事を働いたことに変わりはないからな。次の人生は辛いぞ?」 「……うん」  545はしょんぼりとしてセンターの隅に行く。それを見届けてから長はぽつりと呟く。 「魂たち、最近あまりに自殺が多くないか? 何故だ?」 「何故だって、数十年前に世界大戦があったからですよ。殺し殺されで多くの魂たちがかなり減点されましたからね。今は辛い人生の魂が多いでしょう」 「それだけか? 輪廻転生センターのせいだけではないのではないか?」 「まぁ下界がそんな世の中なのでしょう。僕らは下界には干渉できませんから」 「お前なぁ、お前も近いうちにセンターの長になるんだぞ? 放棄主義はやめろ」  男性職員は長をキッと睨む。 「僕らに何かできますか?」 「人生で駄目なら魂であるうちに加点させるべきだろう。皆、千回の人生を経験してから長になるが、長全員が善の人生を送った訳ではない。魂であるうちに徳を積んだものも多い。このセンターの魂たちは私にとって子供も同じ。良い子であって欲しいのは親として当然だろう」 「言うのは勝手ですよ。何をやらせるんですか?」  長は首を傾げる。名案があった訳ではない。そのまま思い付きを口にする。 「こちらでの道案内をさせようか。他のセンターとも連携して」 「それってセンターに加入してない魂をセンターに連れ込むってことですか!? そんなの駄目ですよ! センターにいる魂は人の魂だけなんですよ!? 虫や獣の魂を入れたら混沌としますよ!」 「いいじゃないか。私はセンターの魂が人だけなのは納得してない。特別扱いするからこそ、減点が多いんじゃないか? もともと輪廻転生の魂の差異などなかったはず。誰が始めたかは知らんが今は輪廻転生センターなんて名乗れんだろう?」 「でもですよ! ここにいる魂たちは徳を積んだ人生を送ってきたから人の魂になっているんですよ!? また虫の生になったら可哀想じゃないですか!」  長はギロリと睨む。 「それだよ。その特権意識。それがよくない。減点されるなら人以外の生にもなるべきだ。そして人は徳を積んだからなれるなど烏滸がましい。人以外に幸せな生などいくらでもあるだろう?」
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