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劣等感
「はぁ…はぁ…ちょ、ちょっと待ってよ!」
今、僕は紫色のツインテールの髪を揺らしながら険しい山道というより75度近い傾斜の山を落ち葉に足を取られたりして若干這いながら歩いてる。
僕の数歩以上先を歩くピンクの四葉のピンをつけた緑色の髪の少年…いや、先輩に連れられここまで来ているが、正直きつい。
「遅いなぁ蒼天!」
「いや!阿頼耶先輩が化け物なだけだから!」
「えぇ〜!?」
阿頼耶先輩は軽いノリで言っているが、本当に軽すぎる。この傾斜でスキップしながら、しかも軽装で歩いてる人間を本当に人間と呼ぶのだろうか?少なくとも今のこの状況で子供の様にはしゃいでいる阿頼耶先輩を僕は人間と認めたくない。
「せ、先輩…本当に…どこまで登るんですか…?」
息も絶え絶えになりながら、先輩を追いかけ一生懸命に追いつこうとするが、伸ばす手すら届かない。飄々としたその後ろ姿を見せつけられる度に僕が持つ事ができない才能をありありと見せつけられる。
苦しい。何も持たない自分が…こんな泥まみれになって這いつくばっている自分が惨めでしょうがない。それでも悔しくて背中を追ってしまうのは、まだ諦める事が出来ないでいるから。
どんなに足掻いて苦しくても、阿頼耶先輩は止まってくれることは無い。なんでこんな事をしているのか意味分からないまま、地に落ちている木の葉を土と共に握りしめ歯を食いしばりながら先にいる余裕そうな阿頼耶先輩を睨みつける。
「よ〜し!あとちょっとだよ!頑張って!蒼天!それとも、もう無理?諦める?」
普段は裏表もなく嫌味のない先輩が、時折僕を挑発してくる事がある。それは決まって僕が『才能』ばかりに目を向けて、逃げ出したり動けなくなりそうな時。
「…」
少しの沈黙の後、僕は立ち上がり今度はゆっくりと自分のペースで進んでいく。阿頼耶先輩を見失わないように、それでいて慎重に足を踏み外さないように向かっていく。
鬱蒼と生えた手入れのされない木々が絡まり影を射し、トンネルのようになっている。ザワザワと音を響かせ辺りの鳥達も僕を拒むかのように悲鳴にも近い大きな鳴き声で僕の行先を陰らせる。
そのトンネルのような薄暗い木々を抜けた先に居る阿頼耶先輩を強く照らす光を見て、また、自分に劣等感を抱く。
「僕には無理だよ…」
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