君はどこへだって行ける

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 また、春が来た。  抜けるような青空から注ぐ陽射しは温かかったけれど、波を裂いて走るフェリーの甲板に立つと、吹き付ける潮風が肌を冷やす。  四月を迎えた今日、私は一人、東京へと向かう。  あれから一年、私は無事に志望校に合格した。  母や数人の友人が、上京の付き添いを申し出てくれた。けど、私は全部断った。みんな名残惜しそうに、港で手を振って見送ってくれた。  聡史はその最後列にいた。笑っていたけど少しだけ下がっている眉を見て、私の胸はちくりと痛んだ。  父はまたどこかへ出掛けていて、結局見送りには間に合わなかった。私をサポートするとか言っていた気がするけど、忘れてるのかな。まぁいいや。また誰かに捕まって、どこかから見てるのかもしれないし。    島の影が見えなくなった頃、甲板の上で膝を抱えて、ほんの少し泣いた。少し泣いたら、涙はいくらでも出てきた。こうなることがわかっていたから、一緒に来て欲しいと、誰にも言えなかったんだ。  これから私は、何度、こうして一人で泣くんだろう。  けど、大丈夫。  私はどこにでも行ける。泣いても(つまず)いても、何度だって立ち上がって、どこへだって行くんだ。  いつかここへ帰り、誇らしく「ただいま」を言うために。
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