君はどこへだって行ける

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 私と聡史はこの島で育った幼馴染同士だ。  本土からフェリーで四十分かかるこの島、島内には小中学校が二校ずつ、高校は一校しかない。田舎中の田舎だ。  年が近くて家が近くてお互い一人っ子。遊び相手は他にいない、そんな環境だったから、私と聡史はごく自然に、兄妹みたいに近しく育った。毎日飽きもせず一緒にいた。    私が中二になった年の夏休みだったと思う。いつものように聡史の部屋で暇を潰していると、聡史が突然キスしてきた。  「嫌だった?」  そう訊かれて、私は首を横に振った。一瞬のことでよくわからなかったしびっくりはしたけれど、別に嫌だとは思わなかった。  聡史はそれを見て、嬉しそうに照れたように笑った。    それ以来聡史は、並んで歩く時に私の手を握ったり、肩を抱いたり時々キスをしてきたりするようになった。  私も別に拒まなかった。聡史と触れ合ったりじゃれ合ったりするのは嫌じゃなかった。どちらかと言えば心地よかった。幼い頃に戻ったみたいで楽しくもあった。  でも、これってどういうのかな。私たちただの幼馴染なのにいいのかな、と思っていたある日、聡史が自分の友達に私と付き合い始めたと公言していると、人伝(ひとづ)てに聞いた。  なるほど私達は付き合っているのかと、納得した。  私も年頃で男女交際に興味があったし、その相手が聡史であることも、まぁ悪くないと思った。  聡史は割と優しいし割といい男だし、何より気心が知れていて楽だ。実際に付き合い始めてからも、身体的接触が増えた以外はそれまでと特別変わることなく、そこそこ仲良くやっている。  私より一歳年上の聡史は、この春、大学生になる。島に大学はないから、フェリーに乗って本土の港近くにある学校に通うのだ。  聡史の家は代々続く老舗の食油工場を営んでいる。島の伝統的な特産品である高級食用油を全国に流通している安定企業だ。高校を出たらすぐに就職する人も少なくないこの島の中で、家業の為に本土の大学で経営を学ぼうとする聡史は、そこそこ『いい家のお坊ちゃん』だ。    「お前も来年、ちゃんと同じ大学(とこ)来いよ」  高二の夏前くらいに、進路希望調査があった。その時はまだ進路について決めあぐねていて、とりあえずこの島から通える唯一の大学、つまり聡史がこれから通う大学の名前を書いた。それを知っているから、聡史は自分が合格した後、何度もそう誘った。    「んー」と曖昧な返事をして、私は聡史の肩にこてんと頭を乗せて、もたれかかった。
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