君はどこへだって行ける

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 この島を囲む海の(あお)が、私は好きだ。  TVや雑誌で見かけるリゾートビーチとかの、真っ青な海の色とは少し違う。島に根を下ろした豊かな樹々の緑の影を、そっくりまるまる映したような、深いブルーグリーンの海の色。  生まれ育ったこの島が、この海が、私は好き。この島でこの海を眺めながらゆっくり年を重ねていくのも、悪くない。全然悪くない人生だ。  学校からの帰り道、海沿いの道を自転車で走りながら、私はつくづくそう思う。  少し前まで、この道を走る時は大抵、隣に聡史がいた。一緒にいれば何だかんだ喋りながら走るから、余計なことはあまり考えない。でもここしばらくは一人で走っているから、思考が四方八方へ広がる。  この島でゆっくり年を重ねる、その過程とその行末には、一体何があるんだろう。  例えば来年、聡史と同じ大学に行って一緒に通って。それで?数年後、聡史は実家の会社に入る。聡史は幼い頃から自分が将来的に家業を継いで守っていかなければいけないことを理解していたし、そのことに彼なりの意欲や誇りを持っているようにも見えた。同じ大学に来いとは言うものの、聡史がそれより将来(さき)の話をすることはない。けど聡史が描く将来図の中には、当たり前みたいに私も一緒に描かれている。何となくだけれど、そんな気がした。聡史のお母さんは夫の会社で総務の仕事を手伝っている。それなら、私も?    一定の速度で自転車を漕いでいると、じわりと汗が滲んでくる。肌や服が潮風を吸ってべたつく。体が重たく感じる。ペダルを漕ぐのにも、少しへこたれてきた。  私は真っ直ぐに帰るのを諦めて路肩に自転車を停めた。海岸に降りて少し涼もうと数歩進んだところで、ふと見覚えのある人影を見つけた。猫背気味の丸いシルエットが、堤防の端っこで釣糸を垂らしている。  父だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加