子供の噂

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 少女を見失った夜。団地に友達はできたのかと大輝に尋ねても、出てくるのは同じクラスの子の名前ばかりだった。他に聞きようがなく春奈は消えた少女の事が気がかりで仕方なかった。今にでもパトカーのサイレンが聞こえてきそうで落ち着けないまま、じっと大輝が眠るのを待った。  大輝の寝息を確認した春奈は、そっと家を出て、少女を見失った場所に向かった。パトカーが止まっている光景が脳裏に浮かんで、心臓も歩く速度も早まった。  着いてみればパトカーなどおらず、何も起こっていないようで胸を撫でおろした。夜の十時ともなれば、建ち並ぶ棟の窓から生活音が漏れてはいるものの、団地内は人気がなく静まり返っていた。  軽く上がった息を整えるように、春奈はぶらぶらと大輝がおはじきを見つけた広場に足を向けた。  やはり電話ボックスの頭上にある街灯だけでは広場は暗かった。通り過ぎようとした春奈はピタリと足を止めると息を潜めた。木製ベンチに、濃い影が座っているように見えたからだ。  春奈は中腰になり目を凝らした。それはシルバーカーを持った老婆のようだった。 『団地の中に、集めたおはじきを持っていくと、お菓子をくれるお婆さんがいる』  御手洗の言葉を思い出し春奈はしゃがみ込んだ。まさかあの人が。しかし昔の噂ではなかったか。あれは本当に人なのかと思ってしまった瞬間に鳥肌が立ち、自分の体を両手で抱きかかえた。
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