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春奈は携帯電話を取り出したものの躊躇していた。噂が本当で、老婆が張本人なら、少女を待っている可能性だってある。早合点なら良いが万が一もある。だが、その根拠はあくまでも噂なのだ。
賢治に連絡しようかどうしようか、またも決めかねて携帯電話を握りしめていると、ベンチの影がゆらりと動いた。
老婆はゆっくりと立ち上がるとシルバーカーを支えに歩き出した。春奈は後を追おうとしたが、犯罪に関与しているかもしれないと思うと、足がすくみ、すぐには立ち上がれなかった。
すると広場の茂みの中から老婆を追うように二つの影が現れた。春奈は口を押えて目を見開いた。それは黒い服装に黒い目だし帽をかぶった二人組の男だったからだ。明らかにこっちの方が怪しい。春奈は慌てて賢治にダイヤルした。
「ごめんね、こんな事で」
春奈は少女と老婆、そして老婆を追う二人組を追っている事を出来るだけ簡単に話した。
「なんでそんな危ないこと! 分かった二人組は俺が対処するから、もう近づいちゃダメだ。今いる場所だけ教えて」
「ええーと、G棟。待って、お婆さんがH棟に入っていった」
二人組も間を置いてからH棟に入っていった。春奈はH棟の正面に回り込んで様子を窺った。階段を三段登ると、棟の一階の部屋がある。その玄関前で、二人組の一人がしゃがみこんだ。
「賢治大変。男がピッキングしてる。多分お婆さんの家」
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