子供の噂

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「大輝。怒らないから正直に言って。このお菓子はどうしたの? お願い。お母さんは大輝が食べても大丈夫なものか知りたいだけなの」  あげた覚えのないお菓子を隠し持っていた大輝に、春奈は根気強く尋ねた。まさか万引きをするほどお菓子を欲しがるような子ではなかったし、無闇にダメだとも言ってこなかった。かといって、自分で買うお金はないはずだし、ここに越してきて間もない大輝にお菓子をくれるほどのご近所さんもいないはずなのだ。  夫の転勤で引っ越して来た、ここ東雲団地は。昭和の高度成長期に郊外の山を削り建てられた千戸を超える、今では珍しいマンモス団地だった。  今のところ春奈は自分たちと同じ棟の人々の顔は把握できていた。いたって関係性は良好に思う。に、してもだ。 「お友達? お母さんもお礼が言いたいから、教えて大輝?」  しかしどうしたことか大輝は頑なに口を閉ざしていた。その瞳は、悪いことをしてしまったからというより、言うこと自体が悪いことだと思っているようだった。 「わかった。大輝のことは信じてる。だけど、くれた人が分からない物はお母さん怖いから仕舞っておくね」  根負けした春奈は、溜息をつきながら大輝の頭を撫でた。
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