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「今度、御手洗さんに話してみようかと思って。大輝が自分の為だけに黙ってるとは思えなくて」
春奈は昼間に起きた大輝の件を夫の賢治に話して聞かせた。
「そうだね。大輝だけじゃないかもしれないし、自治会長なら情報もってるかもしれないからな」
東雲団地は数棟ごとに自治区が分かれており、それぞれに自治会長がいた。そして半年に一度、会合があり問題提起や改善などの情報交換がなされていた。
「万引きされた物だったりしたら事だし、所轄の交番にも声かけておくよ」
「んー。そこまでは。変に話を大きくしてもだし、来て早々個人的なお願いするのも印象が良くないじゃない?」
賢治は出来る限り家に帰ってきて食事をする刑事だった。刑事としてどうかは分からないが、春奈には安心できて頼れる存在だった。
出世にも興味がなく、家族を優先できそうな署に移動願いを出していた。大輝が小学生に上がるタイミングでそれが受理され、東雲団地に越して来たのだ。
「それもそうだ」
二人はクスクスと笑いあった。それは無意識の内に今の幸せが揺るぎないと信じている者の笑顔だった。
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